睡眠時間は長ければ長いほどいい?論文データから考える、自分に合った睡眠時間
「健康のためには、たくさん寝たほうがいい」
「睡眠時間は8時間が理想」

そんな話を聞いたことはありませんか?
確かに、睡眠は健康を維持するために欠かせません。睡眠不足が続けば、日中の眠気や疲労感だけでなく、集中力や判断力にも影響することがあります。

では、睡眠時間は長ければ長いほどよいのでしょうか?
例えば、7時間より8時間、8時間より9時間寝たほうが、健康にとってよいのでしょうか。

僕個人的には、睡眠時間には個人差があり、自分に合った睡眠時間を理解することが大事だと考えています。
ただ、個人差があるからといって、何時間寝ても同じというわけでもなさそうです。
実際に、睡眠時間と健康リスクの関係を調べた研究では、興味深い結果が報告されています。

今回は、厚生労働省の睡眠ガイドや医学論文のデータを参考に、睡眠時間は長いほどよいのか、そして自分に合った睡眠時間をどのように考えればよいのかを解説しますので、楽しみにして下さい。
1. 睡眠時間は長ければ長いほどいい?

結論からいうと、睡眠時間は長ければ長いほどよい、というわけではありません!
もちろん、普段の睡眠時間が足りていない人にとって、睡眠時間を確保することは大切です。
しかし、すでに十分な睡眠が取れている人が、さらに長く眠れば眠るほど健康になる、ということを示す確かな根拠があるわけではないのです。
睡眠について考えるときは、次の3つを分けて考える必要があります。
- 睡眠時間は十分か
- 睡眠の質はよいか
- 起きたときに休めたと感じられるか
同じ8時間寝ていても、ぐっすり眠れている人と、何度も目が覚めている人では、睡眠の状態が異なる可能性があります。
また、必要な睡眠時間は年齢や体質、日中の活動量、体調などによっても変わります。
つまり、睡眠時間の長さだけで、睡眠が十分かどうかを判断するのは難しいのです。

では、実際の研究では、睡眠時間と健康の関係はどのように報告されているのでしょうか。一緒に見てみましょう!
2. 論文で見る、睡眠時間と健康リスクの関係

睡眠時間について考えるうえで参考になるのが、複数の研究結果を統合して分析する「メタ解析」です。
個々の研究だけでなく、多くの研究をまとめて分析することで、全体的な傾向を把握しやすくなります。
研究① 約7時間で死亡リスクが最も低かったという報告
2017年に『Journal of the American Heart Association』に掲載された研究では、睡眠時間と死亡リスク、心血管疾患との関係について、前向きコホート研究をまとめたメタ解析が行われました。
この研究では、睡眠時間と健康リスクの関係に、短すぎても長すぎてもリスクが高くなるU字型の傾向が認められました。

全死亡リスクについては、約7時間の睡眠でリスクが最も低い結果となりました。
研究では、7時間より短い場合には睡眠時間が1時間短くなるごとに、全死亡リスクが相対的に約6%高くなる傾向が報告されています。
一方、7時間より長い場合には、1時間長くなるごとに、相対リスクが約13%高くなる傾向が報告されました。

ただし、この結果には注意が必要です。
これは、長く寝ること自体が死亡リスクを高めると証明したものではないからです。
例えば、何らかの病気を抱えている人は、健康な人より長く眠ることがあります。
睡眠時間が長い人に健康リスクが多く見られたとしても、病気が長時間睡眠の原因になっている可能性があるのです。
また、研究に含まれる対象者や睡眠時間の測定方法などによっても結果は変わり得ます。

「7時間が全員にとって最適」「8時間以上寝ると危険」と、単純に解釈することはできないということですね!
研究② 睡眠時間と死亡リスクを調べた大規模なレビュー
2018年に『Journal of the American Heart Association』に掲載された別のメタ解析では、74研究、約334万人分のデータが検討されました。
この研究では、自己申告による睡眠時間が長い人ほど、死亡リスクが高い傾向が報告されました。
例えば、8時間の睡眠を基準とした単純な比較ではなく、研究内のモデルによる推定として、9時間睡眠では全死亡の相対リスクが約1.14、10時間では約1.30と報告されています。

長く眠る人に健康上の問題が多く見られたとしても、長時間睡眠そのものが原因なのか、病気や体調不良が睡眠時間を長くしているのか、データだけでは区別できないことがあるということですね。
長く眠る人に健康上の問題が多く見られたとしても、長時間睡眠そのものが原因なのか、病気や体調不良が睡眠時間を長くしているのか、データだけでは区別できないことがあります。
また、相対リスクが1.14というのは、基準と比較してリスクが相対的に14%高いという意味です。個人の死亡確率が14ポイント上がるという意味ではありません。

研究結果は、睡眠時間と健康の関係を考えるうえで参考になりますが、個人の健康状態をそのまま予測するものではないのです。
3. 日本では、何時間寝ることが勧められている?

海外の研究結果だけでなく、日本の公的な指針も確認してみましょう!
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人について、個人差を踏まえながら、6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することが勧められています。
また、高齢者については、長い床上時間が健康リスクとなることを踏まえ、床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保するよう示されています。

ここでいう「6時間以上」は、すべての成人にとって6時間で十分という意味ではありません。
6時間寝ても疲れが取れず、日中に眠気が強い人であれば、睡眠時間を増やす必要があるかもしれません。
一方で、長時間寝ているのに疲労感が続く場合は、睡眠時間だけでなく、睡眠の質や病気の可能性も考える必要があります。

つまり、公的な指針も「全員が同じ時間だけ寝ればよい」という考え方ではないのですね。
4. では、自分に合った睡眠時間はどう判断する?
ここまでの研究を見ると、睡眠時間には統計上の傾向がある一方で、個人差も無視できないことが分かります。

では、自分に合った睡眠時間を考えるには、どうすればよいのでしょう?
一つの目安になるのが、日中の状態です。
例えば、次のような点を振り返ってみましょう。
- 朝、無理なく起きられるか
- 日中に強い眠気を感じないか
- 仕事や家事のときに集中できているか
- 休日に何時間も余分に寝ないとつらくないか
- 睡眠時間を確保しても疲れが取れない状態が続いていないか
もちろん、朝起きるのが苦手だからといって、必ず睡眠不足というわけではありません。生活リズムや起きる時間帯なども関係します。

そこでおすすめしたいのが、1〜2週間ほど睡眠の記録をつけてみることです。
寝た時間、起きた時間、日中の眠気、起床時のすっきり感などを簡単に記録します。
そのうえで、無理のない範囲で睡眠時間を少し調整し、自分の体調にどのような変化があるかを観察してみましょう。

睡眠時間だけでなく、寝る時間や起きる時間をなるべく整えることも大切ですね。

ただし、睡眠時間を増やしても強い疲労感が続く場合や、いびき・睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気などがある場合は、医療機関に相談してください。
5. 長く寝ても疲れが取れない場合は?
「休日にたっぷり寝たのに、まだ眠い」
「8時間以上寝ているのに、体が重い」

そんな場合は、単に睡眠時間を増やせばよいとは限りません。
睡眠の質が低下していたり、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害があったりする可能性があります。
また、貧血、甲状腺の病気、気分の落ち込みなど、別の要因が疲労感に関係している場合もあります。
長時間睡眠が続いていて、日中の活動に支障が出ている場合や、以前と比べて必要な睡眠時間が大きく増えた場合は、医療機関への相談を検討しましょう。
「長く寝るのは体に悪い」と決めつけて、必要な睡眠を無理に削ることはおすすめできません。

大切なのは、睡眠時間の数字だけで判断せず、体調や生活全体を見ながら考えることですね。
6. 睡眠時間に正解は一つではない

今回、睡眠時間と健康リスクには一定の傾向があることが分かりました。
統計的には、短すぎる睡眠も長すぎる睡眠も、健康リスクと関連することがあります。
しかし、それをもって「全員が7時間寝るべき」「8時間以上は寝すぎ」と結論づけることはできません。

体質も違えば、仕事や家事、育児など、日々の生活も違います。年齢や体調によっても、必要な休息は変わるからです。
だからこそ、統計データを参考にしながらも、数字だけに振り回されないことが大切なのではないでしょうか。
健康情報を見ると、「これが正解」「こうしなければいけない」と考えてしまいがちです。
しかし、健康によいとされることでも、すべての人に同じように当てはまるとは限りません。

大切なのは、研究で分かっていることを知り、それを自分の生活にどう生かすかを考えることです。
まとめ|長く寝ることより、自分に必要な睡眠を知ろう
睡眠時間は、長ければ長いほどよいというわけではありません。
研究では、短すぎる睡眠と長すぎる睡眠の両方が健康リスクと関連する傾向が報告されています。
ただし、これらの研究の多くは観察研究であり、長く寝ること自体が病気の原因だと証明されたわけではありません。

日本の睡眠ガイドでも、個人差を踏まえて必要な睡眠時間を確保することが勧められています。
まずは、次のポイントを意識してみましょう。
- 睡眠時間を十分に確保する
- 起きたときの休養感や日中の眠気を振り返る
- 寝る時間と起きる時間をなるべく整える
- 長く寝ても不調が続く場合は、病気の可能性も考える
- 統計上の目安を参考にしながら、自分に合う睡眠を探す
健康は、数字を一つ合わせれば完成するものではありません。

研究データを知ることと、自分の体の声に耳を傾けること。その両方を大切にしながら、自分に合った睡眠との付き合い方を見つけていきたいですね。
『予防医学ラボ』では、薬だけに頼るのではなく、健康で長く自分らしく過ごすための知識や考え方を発信しています。
これからも、科学的なデータを参考にしながら、日々の暮らしに生かせる健康情報を一緒に考えていきましょう。
参考文献・参考資料
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- Wang C, et al. Relationship of Sleep Duration With All-Cause Mortality and Cardiovascular Events: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies. Journal of the American Heart Association. 2017.
- Yin J, et al. Self-Reported Sleep Duration and Quality and Cardiovascular Disease and Mortality: A Dose-Response Meta-Analysis. Journal of the American Heart Association. 2018.
※研究結果は集団全体で観察された傾向であり、個人の健康状態や将来のリスクを直接予測するものではありません。